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2010年代の宇宙・素粒子ニュースを振り返る!(後編)

印刷用ページを表示する掲載日:2019年12月17日更新

ニュートリノ!サイエンスコミュニケーターの高知尾です。前半のブログから一週間が経ちましたが、神岡町では雪の気配が一旦抑えられているようです。クリスマスくらいまでは本格的な雪景色にはならないのではないでしょうか。過ごしやすいのは良いことですが、少し寂しい気もします。

それでも、2010年代は確実に過ぎようとしています。

前回に引き続き、この10年に発表された宇宙・素粒子研究の成果や発見について振り返っていきたいと思います。

2016年から2019年を振り返ろう!

「金」の故郷が明らかに(2017年)

中性子星の合体の想像図

2つの中性子星が合体して様々な物質を生み出す想像図(Credit: NASA/Swift/Dana Berry)

 

 人類が初めて宇宙からの重力波の観測に成功したことは前回(2015年の出来事)ご紹介しました。

 これは、その初観測からたった2年後の出来事でした。初観測以降、重力波は度々観測されていました。しかし、2017年8月に捉えた重力波は特別でした。それまでに4度観測されていた重力波の起源はすべて2つのブラックホールの合体によって生じた重力波でした。ところが、この時の重力波は2つの中性子星の合体によるものでした。何が違うのでしょうか?それは、ブラックホールの合体と異なり、中性子星の合体からは重力波以外にも光や粒子など様々なものが放出されるのです。そこで、重力波の観測を皮切りに世界中で70以上の天文台が一斉に同じ天体の方向を向きました。そしてその一部で 実際に時間差で届いた赤外線や可視光線、電波などの信号を捉えることに成功したのです。

 その結果、金やプラチナなどの地球に存在する物質は、中性子星の合体の現場で生まれたという説が濃厚になったのです。私たちが住む太陽系の近くでも大昔、このような出来事が起きていたのだろうかと想像が膨らみます。このように、重力波や電磁波、ニュートリノなど複数の種類の信号を使ってひとつの天体現象を観測する次世代の天文学を「マルチメッセンジャー天文学」といい、次の10年のスタンダードになることでしょう。

ブラックホールの影の撮影(2019年)

ブラックホールの影の写真

イベント・ホライズン・テレスコープで捉えたブラックホールの影(Credit: Event Horizon Telescope Collaboration)

 

 誰もが一度は聞いたことがあるブラックホール。宇宙にある多くの銀河の中心には超巨大なブラックホールがあると考えられています。2019年4月に撮影成功が報告されたのは、地球から6000万光年と非常に遠くの銀河中心にあるブラックホールでした。(ちなみに質量は太陽の約65億倍!!)撮影したのは、「イベント・ホライズン・テレスコープ」という国際協力のプロジェクトでした。特徴的だったのは、世界中の電波望遠鏡が協力して同時に一つの天体を撮影することで、あたかも地球全体を一つの望遠鏡のようにして撮影したことでした。ブラックホールは光さえも脱出できない領域があるため、この写真のように中心がぽっかりと穴が空いたように見えるのです。現在は、私たちが住む太陽系が属する銀河(天の川銀河)の中心のブラックホールの撮影にも挑戦しているということです。天の川銀河の成長にも大きく関係したと考えられる母なるブラックホールを目の当たりにしたとき、私たちは何を感じるのでしょうか。

宇宙で最大規模の爆発を観測(2019年)

ガンマ線バーストの想像図

ガンマ線バーストの想像図(Credit: NASA&ESA 動画から抜粋)

 

 もう一つ、ブラックホールの話題です。でも、今回は前項と比べると比較的小さいブラックホールの話です。質量にして太陽の30倍以上の恒星は、寿命を迎えると爆発してブラックホールになります。2019年11月21日に報告されたのは、地球から45億光年も離れたところで太陽の100倍の質量の恒星がブラックホールになるときに放った超高エネルギーの光を観測したということでした。この放射はガンマ線バーストと呼ばれ、想像図にあるように手前と奥側の2つの方向に放たれます。この時のガンマ線のエネルギーは過去に観測した最高エネルギーよりも10倍大きい1兆電子ボルトまで達していました。このエネルギーは、私たちが普段見ることのできる光(可視光)のエネルギーの1兆倍近い値です。(もちろん、見ることはできませんが!)このような超高エネルギーのガンマ線は、従来考えられていたメカニズムでは放出することができないため新たな理論が必要となります。

 今回、超高エネルギーガンマ線を捉えることに成功したのは東京大学宇宙線研究所をはじめとする国際グループで、MAGIC望遠鏡というとても機動力のある(見たい方向に瞬時に方向を変えられる)望遠鏡でした。

はやぶさ2のタッチダウン成功(2019年)

小惑星りゅうぐうの写真

高度約6kmから撮影された小惑星りゅうぐう(Credit: JAXA、東大など)

 

 2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」は順調に飛行を続け、2019年の2月と7月の計2回、目的地の「小惑星りゅうぐう」へのタッチダウン(接地)に成功しました。2010年の出来事で紹介した「イトカワ」とは異なるタイプの小惑星であり、有機物や水の存在が示唆されています。持ち帰った試料の分析次第では「地球上の生命の原材料はどこから来たのか」という問いにヒントを与えてくれるかもしれません。2019年11月13日に現地を離れたはやぶさ2は、およそ1年かけて地球への帰還を目指します。

 

 

 いかがでしたでしょうか。2010年代後半は、高エネルギー祭り!!!!!だったという印象でした。広い宇宙では、人間の想像もつかないような(これをイメージしやすいイラストで表現してくれる方もすごいですが!)現象が至る所で起こっているんですね。観測技術が向上してきたおかげで、遠くで起きた激しい現象もすこしずつ知ることができるようになってきました。

 

 次の10年はどんな発見があるのか。楽しみですね。

 神岡町の研究施設でもいくつかの実験計画が今まさに始まろうとしています。

 このブログでは、また別の機会にそんなお話もできればと思います。

 

(参考)

東京大学宇宙線研究所 プレスリリース(2019年11月21日)

「地上のチェレンコフ望遠鏡がガンマ線バーストの信号を初観測」

http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/beta/191121.html


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