「素人に毛が生えたようなものですよ(笑)」。取材は、そんなひと言から始まりました。 雪国で暮らしていれば、誰しも一度は経験する「雪おろし」。しかし、住み慣れた自宅と他人の家とでは前提が異なり、現場ごとの条件や制限下で行う雪おろしには、素人の延長とはいえない確かな「技」があります。 その「プロの技」を実践するお二人。有限会社中村工務店の中村功太郎さん(写真右)と、坂上建設株式会社の岡田正裕さん(写真左)に、現場のリアルと地域への思いを伺いました。
──お二人共、古川町のご出身とのことですが、雪おろしのご経験はどれほどでしょう?
中村さん:自宅に加え、会社の倉庫の雪おろしなどをしてきました。さらにここ数年は、吉城建設業協会を通じて、主に一人暮らしの年配の方が住む民家の雪おろしを「仕事」として担っています。年によりますが、ひと冬で担当する 現場はおよそ10件です。
岡田さん:私は建設業界に入って以来、約25年にわたり雪おろしの 仕事を続けてきました。
──雪おろしに慣れている地元の方でも危険を伴う仕事 ですよね。安全に作業を終えるために、どのような点を意識されていますか?
中村さん:基本として意識しているのは、雪を取りすぎないことと、踏み締めて足場を確保しながら作業することです。 特に瓦屋根や新しい屋根は滑りやすく、より注意が必要とされます。
岡田さん:雪が屋根の裾からせり出してできる「雪庇」の部分に乗ってしまうと危険です。そのため、まずは雪庇の一部を落とし、屋根の裾の位置を確認しながら作業を進めて いきます。
──自宅であれば屋根の形状は把握していますが、他 人の家となると話は別ですよね。一度雪が積もってし まうと、素人目には形がわかりづらいようにも思いますが……。
中村さん:見ればわかります。増築によって屋根が入り組んでいる家などの場合は、その間を行き来する大変さはありますが屋根の形状を把握すること自体はそれほど難しくありません。
──屋根の形が複雑であるほど、作業の大変さも増して いくのですね。 加えて、雪を落とす場所が限られている場合も大変ですね。
中村さん:特に民家が隣接しているような状況では落とせる場所が限定されますが、落とした雪を処理する「雪またじ」 の能率も考えながら、工夫して対応しています。
岡田さん:長い屋根などの場合は「波板」という雪を弾く素材の板を置き、その上に雪を滑らせてダンプカーまで運んだり、川へ直接落としたりすることもあります。8〜10 メートルの距離を雪が滑り降りていく様子は、見ていて面白いですね。
──プロならではの手際の良さが目に浮かびます。機材の扱い一つ取っても素人とは差が出そうです。
岡田さん:以前行った移住者向けの雪おろし講習会では、最初のうちはスノーダンプの扱いに苦労する様子も見られました。 雪は大きな塊として存在しているので、スノーダンプを無闇に突き刺しても思うようには崩れません。そこで私は、まずスノーダンプに乗るサイズのブロック状に雪を切り出してから運ぶようにしています。慣れてくると、 軽く切れ目を入れるだけで、一連の動きを止めずに作業できるようになりますよ。 雪が胸の高さまで積もっているような場合には、さらに 上・下の二層に分けることで能率を上げています。それでも雪が多い年は、2人がかりで丸一日かかることもあ りますね。
──特に雪がかたいと、切り出すのも大変そうですよね。
中村さん:雪がかたいと大変だと思われがちですが、私はむしろかたい雪の方が好きなんですよ。大きな雪の塊を「ごぼっ」と取って落とす瞬間は爽快ですし、やわらかい雪より も、2月頃の締まった雪の方がやりがいがあります。
──冬ならではの楽しさがある一方で、やはり危険も伴う作業です。これから雪が増える時期に向けて、市民の皆さんへのメッセージをお願いします。
岡田さん:無理しないでほしいです。これは私個人の印象ですが、 地元には「自分の家は自分で守る」という意識が根付いているように感じます。 以前、雪おろしで伺ったお宅の方から「すまんな、自分で ようできんもんで」と言われたことがありました。年配の方の中には思うように体が動かず、もどかしさを抱えている方もいるのではないかと想像しています。 「家を守る」という気持ちに触れるたびに無理だけはしてほしくないと感じますし、その思いに寄り添える存在でありたいです。
中村さんと岡田さんの本業である土木工事は、まさに「形に残る仕事」です。まちを歩けば、自分たちが携わった現場が思い返されるといいます。 一方、雪おろしは「形に残らない仕事」。それでも、担当したお宅のそばを通ると、冬の厳しさ の中で張り合いを感じた一日がふっと蘇るそ うです。 「残る仕事」と「残らない仕事」。そのどちらも、まちに息づく大切な営みなのだと感じます。
市民ライター 三代知香


