8月30日(土曜日)古川町コミュニティセンター
今回の「飛騨市民カレッジ」は古典文学に精通する能楽師の安田登さん(東京都・69)が「人の心がどのように誕生したか」といった内容について、内外の古典や古代文字をひもときながら解説しました。
高校生の頃、中国古代哲学に関心を持ったという安田さん。以来、中国の古典や殷王朝につくられた甲骨文字などの研究を重ね、「心」は文字の誕生と深く関係していることに気付いたそうです。
講座では殷王朝の宮殿跡から出土した、動物の骨に書かれた甲骨文字とその内容を紹介し「人は文字を使って出来事を記録し、過去や未来を知る力を得ました。人間に心が誕生したのもこの時代で、文字を知る人だけが心を持ちました」と話しました。
この出土品には占いの言葉が書かれ「小屯南地甲骨」と呼ばれています。心を意味する文字は殷王朝に続く、周の時代に生まれたといわれます。
また、安田さんはヘレン・ケラーの自伝『奇跡の人』に書かれた「生きていることばのおかげで、私の魂は目覚め、光と希望と喜びを手に…」といったくだりを引用し、心の成り立ちについて分りやすく解説されました。
また『奇跡の人』には「魂の目覚め」によって「生まれて初めて後悔と悲しみを覚えた」とも書かれています。
安田さんは「心は未来を切り開く力を持ちますが、同時に不安も生み出しました」と話し、「デジタル技術が進みAIが社会に定着したことで、心の時代は終わりを告げるかもしれません。次の時代には何が来るのか考えてみてください」と講座を締めくくりました。
講義の合間には安田さんのアシスタントを務めた、琵琶奏者の金沢霞さん(東京都)が『平家物語』の弾き語りを披露され、貴重な時間を過ごすことができました。
受講された能の愛好団体・神岡藤橋会の結城高枝さんと帰家みさ子さんは「安田さんは能楽師でありながら漢字や言葉の成り立ち、語りに精通され、大変勉強になりました。時代の移り変わりとともに心の形も変わると教えられましたが、私たちも能の心をしっかりと若い人に語り継ぎたいと思います」と話されました。