「あれ、エアコンの効きが悪い……?」 真夏にエアコンの故障は死活問題です。そんなときに飛んできてくれるお助けマンこそ、町の電気屋さん。「市民生活を支える職業や一流の技術を有する市民ら」に光を当てる特集の第2弾では、神岡町で活躍する有限会社カワデン代表取締役の下田章さんに、プロフェッショナルならではの技術や仕事観を伺いました。下田さんは、町の人々から「章さん」「章くん」と呼ばれ親しまれており、電気関係で困ったときの相談役として頼られる存在です。下田さんが市民から信頼を得る理由に迫ります。
──どのようなきっかけで町の電気屋さんに?
前職では化学分野で分析の仕事をしていたのですが、妻の実家が電気屋を営んでいて、事業継承という形で転職しました。実は、もともと旧神岡工業高校で電気系の勉強をしていて、ゆくゆくは電気工事を仕事にしたいと考えていたんです。 ──ご縁があり、結果的に希望の職業に就いたのですね。
__そもそも電気屋さんってどんなお仕事ですか?
家電販売のほか、お宅を訪問して家電の修理や、取り付け工事を中心に行っています。あとは、電球の交換も仕事の1つです。ここ数年は、夏にエアコンの取り付け工事を依頼されるケースが多いですね。近年では、神岡町の最高気温が全国一になったこともあるほど飛騨の暑さは厳しさを増しているので ……。家の中央にある部屋にエアコンが未設置のお宅が多く、 そこへの取り付け工事が度々あります。スペースの都合上、室外機をエアコン本体から離れた場所に設置することもあり、その場合は天井裏に入って配管しています。暑くてなかなか骨が折れますね(笑)
──暑い日に大変なお仕事ですね。体力面に加え、技術面で苦労したことは何ですか?
ひと口に電気工事といっても、家の構造や状態、家電の状態によって工事内容は異なります。かれこれ30年ほど電気屋をやっていますが、故障の原因を見抜く技術を身につけるのに10年以上かかりました。例えば、台風や豪雨の後に発生しやすい漏電。お客様から「ブレーカーが落ちて家中の電気が使えない」とご連絡を受けた後、電気屋の仕事はまず漏電箇所を特定するところから始まります。
──どのように突き止めるのでしょう?
最初に、ブレーカーを1つずつ確認し、漏電が起こっている部屋を特定します。次に、その部屋にある各コンセントを抜き差しして、漏電箇所を絞っていきます。簡単な例を挙げると、冷蔵庫のコンセントを抜いた状態でブレーカーを上げて電気が復旧すれば、そこが原因でしょう。
──漏電の原因にはどんなものが多いですか?
屋外のコンセントに水が入って漏電するケースが多いですね。あとは、凍結防止のために水道管にヒーター が巻いてあるのですが、それが絶縁不良を起こしている場合もあります。今でこそ、初めて訪問するお宅であっても、間取りや配線を見て過去の類似パターンから原因を推測し、効率よく調べることができますが、経験が浅かった頃は原因にたどり着くまでに時間がかかって大変でした。
──下田さんの中にある30年分の膨大なデータが、スピーディーな原因特定につながっているのですね。ところで、私の場合、原因以前に故障しているかどうかすらわからないときがあるのですが……。
実は壊れていなかった、というのはよくあることなので、お気兼ねなくお問い合わせください。過去には、テレビの電源がつかないとご相談を受けてお宅に伺ってみたらコンセントが抜けていた例もありました。年配の方の中には、家電の操作方法をわかりにくいと感じる方もいらっしゃるので、リモコンの利用手順を絵に描いたり、洗濯機のボタンを押す順番に番号シールを貼ったりして、ご利用をサポートしています。当店でご購入された家電に関するお困りごとは、基本的にサービスで対応するのが私共のスタイルです。
──「サービス」の内容が幅広いですね……!
年末、パソコンで年賀状を作るのに、文書作成ソフトや印刷機の使い方がわからないと質問を受け、方法をお伝えしに行くこともあります。そもそも電気に関係のないお手伝いをすることも日常茶飯事です。腰が悪い方のお宅に伺った際には、重い荷物を運んだり、家具を移動させたり。
──大変ではないですか?
頼ってくださることは、むしろありがたいと感じています。お客様の中には、一人暮らしをする年配の方も少なくありません。そうした方々から親近感を持ってお声が けいただけることは純粋に嬉しいです。それに、日常のお手伝いや何気ない会話が、家電の買い替えや修理の依頼につながることもあります。今後とも、お客様と長くお付き合いしていける関係を築いていきたいと思います。
後日、神岡町で飲食店「イーグル」を営む仲田正人さんにご協力いただき、 下田さんが実際にエアコンの取り付け工事をする様子を見学させてもらいました。エアコンの取り付け場所はちょうど照明の裏側かつ、壁の中には電線が通っており、それらを避けながらの難しい工事だったようです。壁に配管用の穴を開けるにあたって、何度も位置を測り精密に作業を進めていく下田さんの姿は、まさにプロフェッショナルそのもの。お店の外観を損なわないよう、白いパイプに壁と同系色のテープを巻くなど、至るところに気遣いが見られました。仲田さんにお話を伺ったところ、下田さんの人柄は「寡黙」とのこと。開業してから26年来の知り合いで、以前、真夏に店のエアコンが故障した際には、すぐに駆けつけてくれたそうです。言葉少なで仕事が早い。町の人々が下田さんをつい頼りたくなる理由をうかがい知ることができました。
市民ライター 三代知香