5月18日(日曜日) 宮川町公民館
昔使われていた民具、発掘された石棒や土器など資料5万点以上を収蔵している宮川町の飛騨みやがわ考古民俗館が今年度開館30周年を迎えるため、これを記念するシンポジウムが開催されました。
博物館をめぐる社会情勢、収蔵される資料の価値や評価が30年前と比べて大きく変化していることを受け、資料の価値をどのように伝えるかや、展示することの意義などを改めてとらえ直そうと企画されたもの。市民のみならず千葉県や和歌山県などからも応募があり、当日は84人が参加しました。
宮川小学校の児童らは「みやがわキッズアンバサダー」として同館の探究学習を行い、ガイド活動を行った取り組みの経緯や成果などを報告しました。担い手不足や冬期の閉館、来館者の減少など同館をめぐる課題を知ることで「廃館になったら地域の文化を未来に伝えることが難しくなり、資料が流失してしまう可能性がある」と危機感を持ったり、市学芸員による取り組みに感銘を受けて自分たちもできることをやりたいと考えたと紹介。展示物について学んだことをプレゼン資料にまとめ、来館者が楽しめるように考え、自分の言葉で来館者に説明することで多くの人に喜んでもらえたことなどを報告しました。
発表を終えた6年生の藤戸貴生さんは「緊張してちょっと失敗したところもありましたが、言いたいことをちゃんと伝えられて良かったです。これから種蔵地区や池ヶ原湿原のことなどもフィールドを広げて探究し、今回のように伝えていきたいです」と意気込みを話しました。
また、全国各地で考古学や民俗学にたずさわる研究者や、民具をつうじたまちづくりなどに関わる皆さんによる活動発表がありました。地域外の「関係人口」の皆さんとともに同館の収蔵品の3D化を進めた取り組みや成果の報告、民具でのまちづくりを進める福島県只見町の事例紹介、岩手県遠野市と宮崎県椎葉村の生活文化や地域づくりの発表などもありました。
1995年から飛騨市内で調査・研究を進めている東京都立大学の山田昌久さんは、全国各地の地域の衰退と、考古学や民俗学の置かれた現状にふれ、現在展示されている民具の使い方などが後世に伝わらない可能性があると指摘しました。昔とは全く違う生活、文化となってしまった現代の人々が「これらの民具は私たちの文化・伝統なんだ」と考えることが難しくなっていると説明。使ったことのない人たちにとっては、これらの民具がもはや縄文土器などの遺物と同じ存在になりつつあると強調し、「これらをどうやって自分たちの地域の文化として考えるかを展示・発信していく必要がある」と強調しました。
発表者らによるトークセッションもあり、参加者からの質問に答える形で「展示物の3D化で展示スペースは必要なくなるが、代わりにデータを保存しておくサーバーが必要になる。デジタルだから安くなるわけではなく、国が予算付けしていく必要がある」「チャットGPTでのくずし字の解読などの精度がかなり高くなってきた。こうした取り組みで作業の時短につながっている」などの意見が出されました。
この日参加した宮川町の幅雅久さんは「今日のシンポジウムは、考古民俗館の認識が広がる良いきっかけになったのでは。専門家の皆さんの認識を共有して、これからの取り組みに生かせば裾野が広がっていく気がしました」などと感想を話していました。