客観的事実が、かっちりした文体で端的にまとめられている。新聞記事に対し、どこか無機質なイメージを抱く人もいるでしょう。 実は、堅い文章の裏には新聞記者の思いが隠されています。今回は、中日新聞社の坂本圭佑(写真左)さん、神岡ニュース社の米澤勇(写真中央)さん、岐阜新聞社の三輪真大(写真右)さんに、新聞記者としての地域との関わり方について伺いました。
──ご出身はどちらですか?
三輪さん:出身は愛知県で、飛騨市に来る以前は岐阜県羽島市の担当でした。飛騨市に越してきて4ヵ月になります。
坂本さん:私は奈良県出身で、3ヵ月前まで名古屋市の本社に勤めていました。
米澤さん:私は生まれも育ちも神岡町です。神岡ニュースの姉妹紙として、南吉城エリアを中心に取り上げる「北飛ニュース」を創刊したのが1977年、2001年に終刊し、神岡ニュースを先代から受け継いで23年経ちます。年齢を重ねるにつれ体力の衰えを感じながらも、地域のためメディアの存続にまい進する日々です。
──お三方共、地域中のニュースをお一人で取材されているとか。記者の一日って想像するだけで忙しそうです。
坂本さん:一日に2〜3件の取材があり、移動の前後に車の中でパソコンを開いて記事を書くのが通常の流れです。記事一本あたり400〜1,000字で、短い記事なら数十分で書き上げます。
──数十分で!スピード感が求められるのですね。
坂本さん:同時に、正確さも不可欠です。特に、事実と異なる内容を掲載する事態は避けなければなりません。ありがたいことに、取材を受ける地域住民の中には、新聞に載ることを特別な機会と捉えてくださっている方もいます。そうした方々の思いを裏切らないためにも、マスメディアとしての信頼性を損なわないためにも細心の注意を払っています。
──時間が限られるなかで一つの間違いも許されない、プレッシャーのあるお仕事ですね。三輪さんと坂本さんは飛騨市に来て日が浅い状況で、どのように取材されているのですか?
三輪さん:前任者が代々築き上げてきた地域との関係を引き継いで取材しますが、何を取り上げるかは記者の興味関心や着眼点に依存します。
坂本さん:私は飛騨市の人口減少と高齢化を一つのテー マとして自分の中に掲げ、取材を通して地域課題を掘り下げています。高齢者全般が困っているのと、目の前のおじいちゃんが困っているのとでは、見え方に大きな差があります。地域住民の顔が見える距離で社会課題を捉えることは地方紙の大事な役割です。そうした考えから当事者目線を意識しており、着任した翌月には古川祭の起し太鼓に参加し、自分のさらし姿の写真に感想を添えて記事にしました。
──個人の感想を書くこともあるのですね!客観的事実を述べる新聞の印象が変わりました。
坂本さん:もちろん、客観的事実を述べるのが基本で、通常の記事に記者の感想が入るのはあり得ないことで す。一方で、記者自身が当事者としてつづることで伝わる臨場感もあります。記者を前面に出す形には賛否両論ありますが、私たちは体験を通じて地域の方と同じ目線 を共有することを大切にしています。
──取材を経た今、飛騨市はどのように映っていますが?
坂本さん:飛騨市では高齢化が進み、祭りの担い手が少なくなっていることは事実です。それにもかかわらず、祭りに向けて毎週公民館に集まり、酒を酌み交わす様子は活気にあふれていました。
三輪さん:皆さん、前向きですよね。以前、山之村を取材した際に、小中学生の結び付きの強さに驚きました。飛騨市でも特に少子化傾向が顕著である状況に対し、子どもたちが「このままでは山之村が廃れてしまう!」と危機感を持ち、地域のことを発信しようと話していたのです。「良い子たちだなぁ」と感心しました。
──思い入れを持って日々地域に向き合っているのですね。
坂本さん:ただ、我々マスメディアは行政の監視役も担っています。だから地域に思い入れを持ちながらも、決して肩入れはしません。あくまでも中立の立場を守っています。
──米澤さんの場合、飛騨市に長くいる分「人」への思い入れが強くなり、中立でいるのが難しそうです。
米澤さん:かつては、さまざまな政治思想を持つ有識者が神岡ニュース社の事務所に集まり、議論を交わしたものです。そうした方々と交友を結ぶなかで、私が誰か一人に肩入れして記事を書けば、読者には簡単に意図が透けて見えてしまいます。直接意見を交換し合える距離に読者がいるからこそ、中立を貫こうという考えが身に染み付いています。
──最後に、飛騨市を日々取材しているからこそ思う地域の魅力をお聞かせください。
三輪さん:天生の山開きを取材した帰りに白山がすごくきれいに見える場所に出会い、心が洗われました。豊かな自然に囲まれ、ゆったりとした時間が流れる飛騨市は居心地が良いです。
米澤さん:同級会を基盤とした横のつながりが強いことですね。切磋琢磨し合える関係があります。
坂本さん:やはり「人」です。先日も、近所の方が畑で採れた野菜を分けてくれて。これは、隣に誰が住んでいるかもわからない都市部では得られなかった体験です。その根底には、祭りなどを通して醸成された地域の連帯感があると感じます。いつか、飛騨市の面白い人やすごい人を大々的に取り上げた記事を書きたいというのが私個人の思いです。
地域の輪に飛び込み「人」に思いを寄せながらも、マスメディアとしての中立な立場は守る。地域との関係が深くなるほど、簡単なことではないでしょう。人としての温かさと公正さを兼ね備えたお三方は、まさにプロフェッショナルそのものでした。 普段新聞を読む方も、読まない方も、ぜひ明日の新聞に目を通してみてください。かっちりした文章の中に、書き手の個性や思いが垣間見えるのではないでしょうか。
市民ライター 三代知香