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プロフェッショナルな薬剤師(市民生活を支えるプロ特集)

印刷用ページを表示する掲載日:2025年7月8日更新

少しの違和感も見過ごさない プロフェッショナルな薬剤師

今日はいかがなさいました?頭痛ですか?どんな痛みですか?薬剤師さんからそう聞かれ、内心「お医者さんに伝えたのになぁ……」と感じる人もいるかもしれません。体調が悪いのだから早く帰りたいですよね。ただ、薬剤師さんが症状を聞くのには理由があります。 今回は、橋本薬局の薬剤師であり、飛騨市薬剤師会の会長でもある橋本尚子(写真中央)さんに、時代とともに変化する薬剤師のあり方・役割や患者さんとのコミュニケーションで大切にしていることを伺いました。

薬剤師は薬局の「外」へ出る時代

──薬剤師さんといえば、病院で処方された薬を調剤してくれる方、というイメージです。

それが仕事の基本ですが、最近は、薬局の外に出るシー ンも増えています。患者さんの中には、高齢で薬局まで足を運ぶのが難しい方もいらっしゃいます。そうした方のお宅を訪ね、朝・昼・晩に飲むべき薬をまとめて置いておくのも役割の一つです。飛騨市では、地域全体で高齢者を見守る体制があり、薬剤師もその一端を担っています。ケアマネジャー、ヘルパー、理学療法士、薬剤師が患者さんのお宅に集まり、それぞれの視点から情報を共有します。患者さんが正しく薬を飲めていないのではないかと感じたときは、担当医の先生に相談することもありますね。 むかしは、そうした横のつながりはあまりなかったのですが、ここ数年、市役所の職員さんのご尽力もあり連携が強化されありがたいですね。

お子さんも過ごしやすい薬局づくり

──患者さんは高齢の方が中心ですか?

隣にある河合医院が婦人科・小児科・内科の病院で、お子さん連れのお母さんも多くお越しになります。

──だから、トトロの装飾がたくさんあるのですね!

はい。実家が薬局を営んでいた背景から私にとって薬局は身近な存在でしたが、一方で白基調の内装や静まり返った空間に対し、しっくりこない感覚もありました。だから、2002年に開業した当初から、ゆったり居心地の良い薬局をつくりたいという思いを持ち続けています。むかし、保育園で保護者会の役員をした時に、今の子どもたちもトトロが好きだと知り、薬局にトトロのグッズを飾るようになりました。居心地の良さから生まれる会話があると考えています。

薬剤師に欠かせない観察眼とコミュ力

──薬局は薬を受け取る場所であって、会話をする場所という印象はありませんでした。

ちょっとした会話から、患者さんについて大事な気付きが得られる場合もあります。例えば、高血圧で通院している患者さんが、ある日足を引きずっていました。話を伺うと、腰を痛めて数日前に整形外科で鎮痛剤を処方されたとのこと。その場合、普段その患者さんが服用している薬との飲み合わせを薬剤師として考える必要があります。もちろん、他に飲んでいる薬はないか事前に問診票で確認しますが、患者さんが書き漏らしてしまう可能性もありますよね。そうした情報を会話の中から拾い、服薬のデータベースである「薬歴」にこまめにメモをすることで適切な薬の提供を徹底します。

──ちょっとした変化を見逃さない観察眼が重要なんですね。

そうですね。さらにコミュニケーションを通じて、患者さんの悩みに寄り添うことも大切にしています。よく相談されるのが、「子どもが薬を嫌がって飲んでくれない」という悩み。対策をお伝えし、その親御さんが次回お越しになった時に「試してみたらうまくいきました!」と 喜ぶ様子を見ると嬉しくなります。薬に関する質問は電話で24時間受け付けており、なかなか気が抜けませんが、不安や悩みを抱えている患者さんを放っておくわけにはいかないという思いで向き合っています。薬剤師としてだけではなく、母として、女性としても、私の経験から何かお伝えできることがあれば共有し、信頼関係を築くのも意識しているポイントです。

それでも、患者さんのために

──中には、体調が悪くてコミュニケーションを億劫に感じる患者さんもいるのでは?

薬をお渡しする際に、薬剤師から症状について質問をしますが、「お医者さんに伝えたから」とおっしゃった患者さんもいらっしゃいます。それでも、症状や体重、常用薬と合った処方がされているかのチェックは薬剤師の最も重要な役割の一つで、問診は欠かせないプロセスです。患者さんの気持ちに寄り添いながらも、確認すべき点は確認します。小児患者の問診中、親御さんがお子さんについて「過去に熱性けいれんを起こしたという情報をお医者さんに伝え忘れた」とおっしゃったことがありました。それを担当医の先生にお伝えすることにより、合わない薬を投与するのを防ぐことができました。大丈夫だろうと楽観視せず、少しでも気にかかる点は必ず確認をします。たとえ杞憂だったとしても、患者さん に万が一があったらと考えると、少しの違和感も見過ごすことはできません。ありがたいことに、よくやりとりをする河合医院の河合先生は気さくな方なので、密に連携ができています。

──最後に、薬剤師会の会長として地域への思いをお聞かせください。

飛騨市の薬剤師会は横のつながりが強い一方で、他の地域に比べて進んでいない部分もあります。最近では、災害時における医療従事者の対応が注目されていますが、私たち薬剤師に何ができるのか。薬局の中のみに自分の役割を限定せず、地域貢献の道を探っていきたいです。

あとがき

市民が災害時を含む緊急時に備えやっておくべきこととして、お薬手帳の作成や、2冊以上保持している場合の統合などが挙げられます。これにより医療従事者はスムーズに対応できるため、まだの方はこれを機にぜひご検討ください。今回、橋本さんを通して薬剤師という職業自体への尊敬の念が増しました。実は、私の母も薬剤師だったのですが、これまで以上に母を誇りに思えるようになった気がします。普段接している身近なあの人を見る目が変わった。さまざまな仕事の裏側を届けるこの企画が、そう感じるきっかけとなったら幸いです。

市民ライター 三代知香

少しの違和感も見過ごさない プロフェッショナルな薬剤師