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プロフェッショナルなアナウンサー(市民生活を支えるプロ特集)

印刷用ページを表示する掲載日:2025年7月8日更新

地元で追及する「声」の道 プロフェッショナルなアナウンサー

朝・昼・晩、定刻に流れる同報無線の放送。地域情報を淡々と読み上げる、澄んだ声の正体をご存知ですか?今回は、飛騨市内の定時放送を担当する、フリーランスアナウンサー・朗読講師の湯之下葉子さんに、声を使う仕事の奥深さを伺いました。

聞き流しやすい・聞き取りやすいを両立

──同報無線の定時放送は、どのような流れで制作されるのですか?

15時頃にスタジオに入り、その日の夜、翌日の朝と昼に放送する分を3本まとめて制作します。市役所の職員さんが作成した原稿をスタジオで読み上げ、録音したデータを専用のソフトで編集し、配信設定をするまでが私の仕事です。音楽の挿入に加え、飛騨市の子どもが挨拶などをする特別コーナーがある日は、それを組み込む作業も発生します。録音から設定完了まで、所要時間は約1時間半です。

──定時放送で湯之下さんの落ち着いた声を聞くと安心します。意識していることは何でしょう?

生活に溶け込む、個性や癖のないアナウンスを意識しています。同報無線の定時放送は、それぞれが主体的に聴いているものではなく、こちらが一方的に流しているものです。だから、耳障りにならない声のトーンを心がけています。同時に、その人にとって必要な情報が正確に届くよう言葉一つひとつを粒立たせることも重要です。興味のない話題は軽く聞き流し、興味のある話題になったら自然と耳を傾けたくなるような話し方を目指しています。

──夜の放送で、湯之下さんが「こんばんは。今日も一日、お疲れ様でした」と言うと、ほっとした気持ちになります。淡々とした話し方なのに機械的に聞こえないのはなぜでしょう?

ありがとうございます。ライバルはAIだと思っているので、そう言っていただけて嬉しいです。内容によって声の音程を変えていることが、人間らしさにつながっているのかもしれません。「おはようございます」は高い音程で元気に。「お疲れ様でした」は抑えめの低い音程でしっとり。ただし、大きく抑揚をつけると耳障りになるため、狭い音程の幅の中で微調整しています。

──ご自身の中で「今日の『おはようございます』は調子が良い」と感じる日はありますか?

あります!ただ、コンディションにかかわらず一定のパフォーマンスを発揮できるよう、毎日、朝の支度をしながら発声や呼吸のボイストレーニングをしています。加えて、朗読をするのが朝のルーティンです。

朗読の師匠との出会いで広がった声の幅

──湯之下さんは現在、朗読の講師もされているとか。定時放送のアナウンスとは全く異なる分野のように感じます。違いは何でしょう?

感情を入れるか入れないかです。といっても、物語の登場人物に<感情移入>するのではなく、あくまでも <感情表現>を通して聴く人に物語を届けることを意識しています。例えば、登場人物が号泣するシーンで、読み手が泣いてはいけません。それは朗読ではなくお芝居だからです。

──どのように感情表現をするのですか?声の音程に変化をつけることが感情表現につながります。難しいのが、声を作り込みすぎるとかえってわざとらしく聞こえる点です。読み手によってさじ加減は異なり、同じ物語を読んでいても別の世界観が広がるところに朗読の面白さがあります。

──朗読の技術は独学で身につけたのでしょうか?

最初は自己流でしたが、ある時、朗読の講師をすることになり、それをきっかけに朗読検定の取得を目指し名古屋市の先生の下で学びました。その後、私の朗読のキャリアに大きな影響を与えたのが、コロナ禍で出会ったアナウンサー兼ナレーターの下間都代子さんです。音声配信アプリで下間さんの朗読を聴き、その豊かな表現力に魅了されました。毎朝、下間さんの朗読を教材に、音声を聴いてすぐに真似る「シャドーイング」という勉強法を続け、次第に「この人に習いたい」と思うようになり弟子入りしたんです。下間さんは大阪府在住でしたが、時流もありビデオ電話で習うことができました。下間さんと接するなかで、いかに自分の声の幅が狭かったかに気付くことができたのは大きな収穫です。

──向上心と行動力がすごいですね!

やっぱり、好きだから学び続けることができています。1982年に当時の古川町役場の有線放送本部で職員として声の仕事に就き、出産・育児で就業ブランク期間もありましたが、決して短くないキャリアだと思います。それでも、できないことだらけです。どれほど経験を積んでも、人のアナウンスを聴くと「上手だな。それに比べて自分は……」と思い、それが自分をさらに成長させていくモチベーションになります。自信のなさが私を育ててくれているのかもしれません。

声ってすごい!地元で広める朗読の魅力

──まさにフリーランスとして理想の姿ですね。最後に、湯之下さんが描く未来をお聞かせください。

地域で朗読の魅力を広めていくのが私の夢です。現在、朗読の教室を持っていて、以前開催した市民講座で興味を持ってくれた人が通っています。少しずつ広まっていっている最中です。カラオケに行って人前で歌うのは一般的ですよね。歌が上手な人は「すごい」と一目置かれると思います。同じように、人前で本を音読するのがもっと普通のことになって、朗読が上手な人はかっこいいという風潮になるよう働きかけていきたいです。

あとがき

湯之下さんは高校時代、放送部に所属し、1年生の時にNHK杯全国高校放送コンテストの全国大会に出場した経歴があります。その後、同報無線の定時放送のアナウンサーに加え、披露宴や行政イベントの司会、朗読の講師など新たな挑戦のたびに学び直し、多彩な表現を身につけてきました。積み重ねてきたものがあるにもかかわらず「自分はまだまだ」と謙遜し、地元にいながら遠くの師匠を見つけて学び続ける姿勢は、どこにいても何歳になっても「好き」を追求できるのだと教えてくれました。同報無線の定時放送は、スマートフォンやパソコンでも聞くことができます。ぜひ、湯之下さんの「お疲れ様でした」を味わってみてください。

市民ライター 三代知香

地元で追及する「声」の道 プロフェッショナルなアナウンサー