「今日、入院!?」 誰にでも起こり得ることです。そんなとき、冷静でいられるでしょうか?不安で頭がいっぱいになるかもしれません。そうした不安な状況下で、入院時から寄り添い、退院後の地域生活を見据えたサポートをしてくれる人がいます。今回は、飛騨市民病院の地域連携室で働く社会福祉士の舩坂志乃さんにインタビュー。各所と連携し、市民の入院生活と日常をどうつないでいるのか伺いました。
──地域連携室ってどんなところですか?
地域連携室は、他院や保健・福祉機関と連携し、患者さんとご家族に寄り添いながら必要な調整を行う、地域医療の窓口です。看護師長、看護師、事務職員、私の4名体 制で応対します。私の主な業務は入退院支援や介護保険に関する案内・相談対応等で、適宜看護師長にフォローに入ってもらいます。
──入退院の支援とは、具体的にどのようなものでしょうか?
入退院支援では、患者さんの退院後の生活を見据えたサポートを行います。特に高齢の患者さんの場合、入院中に筋力や気力が低下し、入院前の生活にそのまま戻るのが難しいケースも少なくありません。そこで、入院前の暮らしぶりを詳しくヒアリングし、できる限り元の暮らしに近付けられるよう、リハビリや病棟のスタッフと連携しながら支援を進めます。リハビリの進み具合に応じて、退院後に元の生活に戻れるかを見極め、難しい場合には自宅での生活環境をどう整えるかを一緒に考えます。一例として、入院前は2階で布団を敷いて寝ていた場合、階段の昇り降りや布団から起き上がる動作が負担になる可能性があります。そうしたときは、1階にベッドを設置できないかなど、住まいの工夫が必要です。状況に応じて、介護保険の申請やサービス内容の見直しなどもサポートします。退院前にカンファレンスと呼ばれる会議を行い、在宅生活への準備を整えるケースも多くあります。
──実際にリハビリの様子をご覧になるのですか?
はい。カルテのリハビリ記録を読みつつ、現場の様子を直接見たり、リハビリスタッフから話を聞いたりしています。順調だと思われていた方でも、動きが想像以上に不安定だったケースもありました。そうした現場での気付きを得るため、自分の目でも確かめる姿勢を大切にしています。
──退院後の生活以前に、入院そのものにも大きな不安がつきまといます。私自身、3歳の息子がいるので、もし急な入院となればきっと不安になるはずです。
当院では、小さなお子さんがいる患者さんが入院することは多くはありませんが、「介護を必要とする夫(妻)と二人暮らし」といった家庭の事情から、入院に不安を抱く方は珍しくありません。 あるケースでは「旦那さん(奥さん)のケアマネジャーさんを教えていただけますか?」とお聞きし、こちらからケアマネジャーさんに状況をお伝えしました。その上で、急遽ショートステイをはじめとした在宅サービスの調整をしていただいたこともあります。患者さんの「自分の体調よりも家族の今が心配で……」というお気持ちが伝わってきたからこそ、できる限りの支援に努めました。小さなお子さんがいる場合、保育園に通っていれば延長保育を依頼したり、その間に祖父母や頼れる人に迎えに行ってもらえるよう段取りしたりといった対応も考えられますね。
──超高齢化社会だからこそ、大変な場面もあるのではないでしょうか。
高齢のご夫婦や一人暮らしの方にとって、入院の手続きだけでもひと苦労です。書類が読めない、書けない、手に力が入らない──そんな状態で、杖をつきながら付き添う姿も見られます。家族が遠方に住んでいれば、すぐに駆けつけるのも難しく、支援の限界が見えてくる場面もないとはいえません。そうしたなかでも、患者さんとご家族、どちらの思いも大切にしながら現実的な選択肢を提示し、最終的な判断は当人たちに委ねていく。そんな関わり方を大切にしています。
──患者さんやご家族との関わりのなかで、特に印象に残っている出来事はありますか?
忘れられないご夫婦との出来事があります。奥さんが入院し、旦那さんが毎日のようにリハビリの様子を見に来ていました。退院の前日、旦那さんから「またここに来てもいいですか?」と言われたんです。もちろん入院しないに越したことはないので複雑な心境ではありましたが、それでも「また来たい」と感じてもらえたのは嬉しかったですね。そう感じてもらえる病院であることが大切だと思います。そのためにも「退院後も気にかけている」という雰囲気は伝わるように意識していますし、家族とのつながりを大事にしたいという思いも持ち続けています。何かあったとき「地域連携室に行けば安心できる」と感じていただけるよう、患者さんや家族に寄り添っていきます。
令和元年に病院での仕事を始めて約6年。今もなお、患者さんやご家族にとって何が最良かを日々模索し続けています。まずは相手の思いや背景に耳を傾け、丁寧に汲み取ったうえで、一緒にこれからの道を考えていく。常に「その人にとってのベスト」を探し続ける姿から、地域の人々に信頼され、愛される理由が伝わってきます。 舩坂さんは飛騨市民病院に勤務する前、障がい者施設で約16年間働いていました。一方で、学生時代に観たドラマの中で、患者に寄り添うソーシャルワーカーの姿が心に残っていたといいます。同報無線で社会福祉士の募集を耳にし、「これを逃したらチャンスは二度とない」と病院の世界に飛び込みました。
市民ライター 三代知香