子どもが病気のときくらい、そばにいてあげたい。でも、仕事に穴をあけるわけにもいかない。そんなお母さん・お父さんの葛藤にそっと寄り添ってくれるのが「病児保育」です。この言葉を聞くと、熱でぐったりした子どもがベッドで 静かに寝ている──そんなイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし、実際にはそうしたシーンばかりではないようです。病児保育「たんぽぽキッズ」で働く看護師歴20年超の平山智美(写真左)さん、保育士歴9年の森田遥(写真 右)さんに現場のリアルを伺いました。
──病児保育「たんぽぽキッズ」とはどんな場所ですか?
乳幼児から小学校6年生までの、療養を必要とするお子さんをお預かりする施設です。
お子さんの体調が優れな いときも、親御さんが安心して働けるサポートをしています。
──我が家には年少児がいるのですが、なんとなく利用 のハードルが高くて……。
どの程度の体調不良で預けてよいものなのでしょう?
インフルエンザ(※1)などで高熱が出た状態でも受け入れ可能ですし、熱が下がった後の様子見期間や、熱はなくて元気なものの鼻水や咳が多いときにもよく利用されます。
※1 新型コロナウイルスに限り、感染したお子さんの受け入れは行っていません(2025年9月時点)
──何日も仕事を休み、見た目には元気そうな子どもを終日みるのは大変なので、病後も預けられるのはありがたいですね。
年々利用は増え、2024年度の利用回数はリピーターを含め約450件とか。それほどの件数をどのような体制で支えているのでしょう?
看護師は月曜日から金曜日まで私が常駐し、保育士の担 当は日替わりです。病児保育は毎日利用があるわけでは ありませんが、当日の利用に備えて保育士も出勤し、朝 10時までは待機します。 さらに小児科医の診察もあり、必要に応じて薬の処方や検査を行います。体調に異変があればすぐに医師と連携 できる体制も、安心してお預けいただける理由の一つです。
──体制が整っているとはいえ、例えば感染症が流行したときは大変なのでは?
以前インフルエンザが流行した時期にお子さんを預かったときは、応援が来たとはいえ息つく間もありませんでした。
感染者とそれ以外で部屋を分けて対応しましたが、 それでも感染を広げないよう神経をすり減らしたことを覚えています。
──保育園だと先生が連絡帳や口頭で子どもの様子を知らせてくれますが、病児保育ではいかがでしょう?
そのように利用が集中する日は特に、メモを取る時間もなさそうです。 体調の変化はもちろん、1日の中でどのようなコミュニケーションを取ったかも細かく記録します。どれほど忙しくても絶対に手を抜きたくないという思いで向き合っています。お子さんの体質や性格を他の担当者と共有する目的もありますが、何より親御さんにきちんと報告して安心してもらいたいからです。「大丈夫でした」とひと言で済ませ ることもできますが、細かく様子をお伝えすることが安心につながると信じています。 体調不良の子どもを1日預ける親御さんの心中を思うと……現場の 様子は可能な限り詳細に届けたいですね。
──保育園と病児保育の仕事で異なる難しさは何ですか?
病児保育では、より医療の知識が求められることです。本から得る学びに加え、実際の現場では小児科経験が豊富な平山さんの対応を日々見て学んでいます。例えば、熱の上がり具合を見ながら、その子にとって最適なタイミングで坐薬を使用する判断。坐薬や吸入(※2)を嫌がる子もいますが、工夫を凝らして向き合う姿は勉強になります。
※2 霧状にした薬を吸い込む治療法
医療の面で学びを重ねつつ、保育士として気持ちの面でお子さんと信頼関係が築けるように心がけています。
病児保育は養護の考えを中心に、お子さんのペースや性格に合わせてゆったり関われるのが特徴です。お子さんがお家の延長線上で安心して甘えられるような家庭的な環境を目指しています。 体調が悪くて辛い子どもたちの気持ちに寄り添い、安心して過ごせるような雰囲気づくりに努めています。病気で来る場所なので「また来てね」とは言えませんが、それでもお 子さんが「また来たい」、親御さんが「また預けたい」と思えるような素敵な1日を提供できる場でありたい──そんな思いに根ざしたこの場所の良さが、この機会に少しでも伝われば嬉しいです。
自分の幼少期を振り返ると、風邪をひいて幼稚園や学校を休んだ日は、いつもより母が甘やかしてくれた記憶があります。だから自分が親になってからも自然と自宅保育をしてきましたが、在宅ワークをする私の隣で一人遊びをする時間が、息子にとって本当に楽しいものなのか疑問は拭いきれません。安静に過ごしながらも、子どもが楽しめる場所があるのなら──療養の場として、 病児保育は前向きな選択肢になり得る。そう思えたインタビューでした。
市民ライター 三代知香