2月9日(日曜日) 古川町公民館
市民の生涯学習の学びの場である「飛騨市民カレッジ」のアカデミック講座として、大正大学文学部人文学科教授の伊藤淑子さんを招いた講演会「ジブリのさんぽ~さまざまな視点からジブリのアニメーションを見てみよう」が開催されました。
伊藤さんは、主に19世紀のアメリカを中心とした英語圏の文化について研究しており、アメリカ文化を色濃く反映しているディズニー作品を題材とした分析なども行っています。作品中に描かれている年代や当時の社会的背景をふまえ、登場人物が置かれた状況や心情などを推し量りながら、作品に込められた作り手の真意やメッセージを考察するなど、新しい視点で作品を分析する取り組みを実施。学生の皆さんから「ジブリの作品も分析してみたい」と要望があり、研究を始められたそうです。
この日は前半、伊藤さんが衝撃を受けたというジブリの代表作『となりのトトロ』(1988年公開)を題材に取り上げました。この作品は、昭和30年代前半の田舎を舞台に、都会から引っ越してくる一家の子ども・サツキとメイが、村にひっそりと息づく存在である「トトロ」などとの出会いと交流を描いたもの。
伊藤さんは核家族化や職住の分離、病院や学校の制度化、厳密に区切られた時間のとらえ方、メディアの発達、性別による役割分業など、さまざまな時代背景と作品の内容をからめて丁寧に解説しながら「近代が迫りくる社会環境が背景にある」と指摘。迷子になったメイと必死に捜すサツキの場面を取り上げ、「しかし最後に2人を助けたのは、近代家族である両親でも、近代が迫る村でもなく、トトロとネコバスでした。大人には見えない、想像力が生み出したトトロという存在が救い手となった。どんな時代が来ても、私たちの感受性や想像力が無限に開かれていることで、いろんな窮地を乗り越えたり、新たな可能性を開いていくことができるかもしれないと訴えているのでは」と熱っぽく語りました。
後半では『千と千尋の神隠し』や「風立ちぬ』なども取り上げて考察を掘り下げ、登場人物が置かれたであろう状況や時代背景、作品に込められたメッセージなどを読み解きながら「現代の子どもにとっての通過儀礼」「反戦という言葉のとらえ方」「女性が担ってきたケアの価値」など、さまざまな事柄に言及。参加者は、グループごとに分かれて感想などを話し合ったり意見を発表したりしました。
受講した古川町の森澤緑さんは「ジブリ作品が好きなので興味を持って参加しました。さまざまな視点を聞いて、また観たくなりましたし、作品を見直してさらに理解を深めたいです」「『千と千尋の神隠し』のお話で、主人公の千尋と両親はそれぞれ経験が異なっていて記憶を共有していないので、千尋は自分の経験について親と語り合うことができないという考察が印象に残りました。若い世代と親世代では共有できない話題があるなど、現実の社会に通じると思いました」などと感想を話していました。